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スカボロー・フェアを夢見て(2)

  この中に生命が凝縮していることを思うと、畏怖さえ覚える――
それほどに細かいオレンジタイムの種を、
なるべく等間隔になるよう注意して、なんとか三つの鉢に蒔き終えた。

水やりで種が流れてしまわないように、腰水をして待つこと一カ月。

「芽が出ないなぁ、おかしいなぁ」と思案していた矢先、ついに発見した。
黒土に芽をだした最初の双葉は、川底に光る砂金の一粒にも見えたのである。

スカボロー・フェアを夢見て(2)_b0209810_1728136.jpg

 
 慎重に水やりを続け、風や、雨や、日差しの加減によって鉢を移動させながら、
遠いオランダの風土を勝手に思い描きつつ手をかけたおかげで、
無事に本葉も出て、5センチほどになった。
ここからぐんぐん育つことを見越して、肥料を入れた大きい鉢に植え替えたとたん、
爆発的に成長が進んだ。

 ここまでくれば、あとは収穫を待つばかりなのだが、ひとつだけ気がかりなことがあった。

香りがしない。

 葉っぱをちぎって食べると、なんともいえない青臭さだけが口中に広がる。
有体にいえば、「うへ~、ぺっぺっ」という感じ。

「味は残念だが、仕方ない。なんとなれば、ハーブ=香草なのだから。
そして、もっと大きくなれば、香りも出て来るのだ」
そう思えば、そんな気がした。

 
スカボロー・フェアを夢見て(2)_b0209810_17281332.jpg


 そして今日、草むしりの時に、はからずもその答えを知ることとなった。
家に入って急いでパソコンの電源を入れ、オレンジタイムの画像を検索。


ち、ちゃうやんか~!
 そう、私が、その名もゆかしいオレンジタイムだと信じて育てていた草は、
ついさっき、庭でオニのように引っこ抜いていた雑草と、寸分たがわぬ姿だったのだ。

そういえば――種をまくとき、培養土がちょっと足りなかったので、庭の土を足したっけ
そういえば――タイム(偽)の発芽の後から、ちっちゃい緑がぽちぽち生えてきたのを
「タイムさまの邪魔をするとは不届きな!」とばかりに、目につくたびに抜いてたっけ。
まさか、あっちが本物だったとは……。


自分のあほさかげんが、つくづくいやになる。


 幼なじみから電話があったので、事の顛末を語ってから、付け加えてみた。
「あたし、最近、ボケてきたのかな?
言いながらも、漫然と、「そんなことないよ」という返事を期待していた。
幼なじみの慈愛に満ちた声が、言った。

 
「そんなことないよ、だいじょうぶ!――40年前からそんな感じだった」

ハァ、そうですか。ありがとう。



スカボロー・フェアを夢見て(2)_b0209810_17283925.jpg

手前の三本が、思い込みオレンジタイム(奥はミニトマト)。
せっかくここまで育ったので、どんな花が咲くか見届けますわ(^_^;)
by mofu903 | 2011-06-24 17:53 | 植物