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お父さんに、そっくり

 
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「人にものを頼まれると、断れない」という人がいるが、
どちらかというと、私もそっち側の人間である。

 
別に器が大きいわけでもなんでもない。
その反対で、気が小さくて、なかなかNOが言えないからだ。
しかも、非力のくせに、困っている人を見過ごせないお節介なところもある。
言葉は悪いが、
「自分の頭の上のハエも追えないくせに」
という表現がぴったりな状況に陥っては、じたばたとあがいて後悔しているのだから、
世話はない。

 
 私は、見かけも性格も、亡くなった父親に似ている。
「一目で親子ってわかるよね」と、幼いころからよく言われたものだ。
今思えば、多感な思春期でも、友達に「そっくり」と笑われて平気だったのだから、
相当な父親っ子だったのだろう。


 父もまた、人に物事を頼まれると断れない性格だった。
しかし、私と根本的に違うのは、
「断りたいけど、断れない」という葛藤がないところだ。
むしろ、何事も嬉々として引き受けていた。

  
 もちろん、家族である母も私も、すっかり頼りきっていて、
なににつけても「おとーさーん!」で済ませていたふしがある。
家庭をなにより大事にする人だったが、それは、物心ついた時にはすでに
両親が他界していたという、生い立ちのせいもあったかもしれない。

 
 父が亡くなった際に、母がまず思ったのは、
「ああ、もうこの人は、私たちのために何もしてくれなくなった…」
ということだったと聞いて、
娘としては、「まったく、もー」と呆れるほかなかった。


 晩年、パーキンソン氏病におかされた父は歩行が困難になり、
そこそこ明晰だった頭脳にも、霧がかかってしまった。


 闘病中、車いすに乗せて、歯医者さんに連れて行ったことがある。
行くまでの道が長い坂で、若くもない娘には結構きつい。
まして、車いすを押しながらだから、思わず、「よいしょ、よいしょ」と
息切れまじりに、かけ声が出た。

 
 これを聞きつけて、娘のピンチだと思ったのだろう。
すでに声も出にくくなっていた父が、突然、元気だったころと同じ声音で、
「じゃれ、大変だろう? お父さんが代わってあげよう」  
これこそ、「自分の頭のハエも追えないくせに」の最たるものではないか。
思い出すたびにおかしくて、同時に、鼻の奥が、つんとする。

 

 最愛の父が旅立ってから、今日でちょうど八年。
年ごとに、父との思い出は遠のいていく。
そして、私たちを隔てている距離は、近くなる。
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by mofu903 | 2011-04-25 12:55 | 家族