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お月さまふたつ

 
今日は、祖母から聞いたお話をしましょうか。


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お寺に生まれた、はな(祖母)がまだ小さかった頃、
近隣に実直な人柄で知られる古老がいた。
 その老人が少年だったころの体験というから、今から一世紀半も昔のことだろう。


 時は、春の宵闇せまるころ、おつかいを済ませての帰り道。

 その人が、里近くに立っている「一本桜」の下に差しかかると、
満開の枝の中ほどに、まるで芝居の小道具のようなまんまるい月が、なっていた。
びっくりして、確かめるともなく東の空を見上げると、
そこにはちゃんと、見慣れた月が昇っている。
気を落ち着けてからもう一度、もとの場所を見返したが、
やっぱり妙につるっとした怪しげな月が、枝から、ぶら-ん。

でも、形はさっきよりいくらか間延びしたような――。

 途方にくれたが、勇気をふりしぼって、「こいつめ!」
とばかりに桜の根元を蹴りつけると、
ドサリ、と黒いものが地べたに落ちるやいなや、転がるように逃げていった。

 蹴った拍子に鼻緒が切れたわらじをふところにねじこんで、はだしで家にとんで帰り、
両親にこれを告げると、
「そりゃ、ムジナのしわざだ」
と言われたそうな。

 一徹な老人が、真顔でこの昔語りを聞かせるたびに、
子どもたちは固唾をのんで聞き入った。
そして、『ムジナのしわざ』のくだりになると、
おそろしさに縮こまったり、耳をふさいだりしたという。


 
今夜の月があんまり大きくて、あんまり黄色いから、そんなのどかな怪談を
思い出しました。

by mofu903 | 2011-04-18 20:00 | 不思議