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陽のあたる場所

 
 一駅先の公園まで足を伸ばした。
ここの中央広場には大きな池があって、噴水のしぶきが陽光にきらめき、
芝生には人々がのびのびとくつろいでいる。
風に乗って子供たちの声も聞こえて来る。

 こういう光あふれる明るい場所は、遠くから眺めている方が、私にはずっと楽しい。

昔から、すべてがくっきりと見とおせる日なたが味気なく思え、
秘密めいた薄暗い場所に惹かれる子供だった。
そしてそのせいか、迷子になってばかりいた。

 
親や友達と一緒だったはずが、気がつくとまわりに誰もいない。
建物の裏側をのぞいたり、ちょっとだけ……と路地に入り込んだりしているうちに、
置いていかれてしまうのだ。
「急いでみんなに追いつかなくちゃ」という焦りと、
「もっと奥を確かめたい」という好奇心の板ばさみを、何度も経験した。

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 三つ子の魂というが、今でも散歩をしていると、
決まって、広い道を離れて細い横道へと足が向く。
デザインに凝った新築の家よりも、住む人のない空き家。
手入れが行き届いた庭よりも、草木が生い茂るひんやりした裏庭に、心が残る。

 
まぶしい光の中にあっても、翳をまとう風景がある。
そんな風景に向かい合うと、私はきっと引き返せなくなる。
いまだにそれは、私を現実世界から不意に切り離して、
「もっと奥へ」と誘うからだ。
by mofu903 | 2011-04-01 22:01 | 日常