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いたずら神

 
 買物に行く途中の道端に、柚子の実が沢山落ちている。
ざっと見たところ、三十個はありそうだ。
この道沿いの家には、敷地内に大きな柚子の木があるのだが、
いつ通ってもひっそりと静まって、折角たわわについた実を収穫する人もいない。

 「落ちたままでもったいないなぁ」と思いながらよくよく見ると、
ひとつだけ、明らかに色の濃いのが混じっている。

どう見ても小粒の蜜柑に見える。 
これを見過ごせない<おひろいさん>の私、さっそく拾ってみた。
香りといい、つるっとした果皮といい、まぎれもなく新鮮な蜜柑である。
念のために皮をむいてみたが、やはり蜜柑。
何故、柚子の中にひとつだけ蜜柑が? 頭の中は?だらけになる。

 そして、いろいろな情景が去来する。
おかあさんに抱っこされた小さい坊やの手から落ちた蜜柑。
ころころ転がって、柚子の中にまぎれる。
あるいは、荷台に箱入りの蜜柑を乗せて走っている自転車。
小石に乗り上げてぴょこんと跳ねた拍子に、ひとつころりん、すっとんとん。
いやいや、これらの柚子自体、この木から落ちたのではないかもしれない。

 妙な推理を働かせれば働かせるほど、無理がある。
偶然にしても、出来過ぎではないかしら。

 このように、日常生活の中で、「どうも腑に落ちない…」ということが、
頻繁ではないにしろ起こっているのは確かだ。
そんな時、私は、「何者かにからかわれている」と考えることにしている。
何者とは、なにか。

 神様ほど崇高な存在ではなく、神とは名ばかりの、低級レベルの悪戯神。
 略してイタ神。 
 
イタガミは、することなすことが、その名の通り、痛い。

皆さんにも、そういう経験はないだろうか。
いくら探しても見つからなかった書類が、
すでに探しつくした引き出しの一番上に乗っていたとか。
引き戸が引っ掛かるなぁと思って覗いたら、なぜかキュウリが挟まっていたとか。

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                            photo by びすこってぃさん(足成)


「やられた!」と思ったことは何度かあるが、
その中で一番に思い出すのは、昔のこんな出来事だ。

 自分に鞭打って苦手な歯医者さんに行き、治療用の椅子に座った。
助手さんが優しい声で、「椅子を倒しまぁ~す」と言ってくれる前に、
いきなり背もたれが動いて、上半身がガクーンと後ろに。
 助手さんがあわてて起こしてくれたが、緊張下でのアクシデントだったので、
心臓が止まるかと思った。

 そのあとで、美容院に行った。
なんと、シャンプー台の椅子で、ふたたび同じ悲喜劇に見舞われた。
そうですか。人生初体験が、一日のうちに二度ですか。
ありがたや~……って、そんなわけないでしょ! こら、イタ神!

かくて、イタ神はキヒヒと笑う。

そういえば、この話を書いているあいだずっと、タイプ変換がおかしい。
未完、見寒、みかん…。ぃ酢、イ酢、椅子だってば。
恋詩、故意詩、請イ氏(なんじゃ、こりゃ)。
 結局、「小さい石ころ」と打って、「小石」に変換する始末。
イタ神は、最近、パソコンにも詳しくなったようだ。
by mofu903 | 2011-01-25 22:43 | 不思議