もうひとつの国
私の住まいは小高い丘の上にある。
ここに越してきてから、刻々と変化していく夕空を見るのが、楽しみの一つになった。
闇が降りてくる前のほんのひと時、空には地上と異なる風景が現れる。
まるでそこに別の国があるように。
空の上の国といっても、特に神々しいものではない。
誰もが一度はどこかで見たような、懐かしい風景である。
視界の遥か先まで、群青の雲が濃淡をなして、背後の山並みとみまごう稜線を形作り、
手前には、淡色の空が穏やかな水面となって広がる。
雄大にたなびく雲は、複雑な輪郭を見せて、実際の海辺の風景そのままに、
島や湾や入り江を浮かび上がらせる。
ところどころに、雲の切れ端が小船のように漂う。
いっとき、空の上の国は濃い朱鷺色と金色に輝いて、次第に薄墨に沈んでいく。
やがて、空の岬の灯台に、いちばん星が灯る。
by mofu903
| 2010-09-14 00:40
| 日常