チチンプイプイ

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「痛いの痛いの、飛んでけ~」

転んだり、どこかをぶつけたりして、思わず泣きべそをかいたとき、

親にこう言ってもらった、あるいは、そう言って子供をなだめた、

という経験を持つ方は多いのではないかしら。


私も、わが子に対して良く使っていた。

「チチンプイプイ、痛いの痛いの、遠―いお山に飛んで行けー!」

こう唱えながら、名投手よろしく、思いっきり「痛いの」を遠くに放り投げる真似をする。

ついでに、勢い余ってつんのめったりふりなどしてやれば、子供たちはきゃっきゃと喜んで、

たった今、膝小僧を擦りむいたことも忘れてしまう。




さっき、うっかりして熱いフライパンに触ってしまった。

ひりひりする指先に水をかけながら、(痛いの痛いの…)と自分自身に言いかけて、ふと気がついた。

そうだ、やけどに効く呪文があったんだっけ。


「猿沢の池の大ヘビ焼け死んで、その葬式をタコがするなり」


むかしむかし、明治生まれのおばあちゃんから教わった呪文の一つである。


祖母の生家はお寺だったので、ことあるごとに檀家の人たちが寄り合いをしに集まってきたらしい。

そこでは、他愛ない茶飲み話にも花が咲いたことだろう。

そういう場で、「生活の知恵」としてのまじないが、年寄りから子供へと

口づてに引き継がれていったのは、想像に難くない。




祖母から聞いたおまじないを思い出すままに書いてみる。


のどに魚の骨が刺さったときは、

 「骨吹き返せ伊勢の神風、アブラウンケンソワカ」


こう唱えてから、ご飯を一口ぶん噛まずに呑み込む。



夢見が悪くて気になるときは、この呪文を唱えれば安心だ。


「見し夢を、バクの餌食となすならば、心も晴るる有明の月」





今はもう、町なかでリードのない犬を見かけることはないが、私が小さい頃はたまに、

哀しい目をした野良犬に出会うことがあった。

幸い、彼らはおとなしかったが、祖母が子供の頃は、野良と呼ばれる犬はもっと多かったに違いない。

子供にとって、逃げれば追いかけてくる犬は、脅威だったろう。

そのために、「犬除け」というものがあった。


「いぬ、い、ね、うし、とら(戌亥子丑寅?)」

と言いながら、親指から小指まで指を折っていって、出来たこぶしを握りしめる。


母に聞いた話では、このまじないは、幼かった祖母が実験済みだそうだ。

結果は、あえなく犬にかみつかれてしまったというから、なんとも気の毒。

しかし、その情景を思い浮かべるたびに、薄情な孫娘(私)は、こみあげてくる笑いを抑えきれない。




私が試して、よく効いたものもある。

針をなくしたときの呪文

清水の音羽の滝は尽きるとも、失せたる針の出でぬことなし


中三の時、家庭科の授業で浴衣を縫っていたのだが、ときどき針がなくなったと言い出す子がいて、

そんなときは、先生の号令一下、クラス中で作業台の上から床まで、なめるように探させられたものだ。

そこで、この呪文をクラスメートに教えたところ、不思議と針がたやすく見つかるようになって、

みんなに感謝されるということがあった。

ぶきっちょな私は、家庭科の先生の覚えがめでたくなかったが、

このできごとにだけは感心してもらえたようで、先生も「清水の…」と、手帳に書き写しておられた。

(まじない効果で、評点が少し上がるかしらと期待していたが、結局、いつも通りのCだった。)



呪文ではないが、こんなおまじないもある。

しゃっくりが止まらないときは、器に水を入れ、二本の箸を十文字になるように渡して、

仕切られた四か所から順に飲むとか、

起きたい時刻の数だけ枕をたたいて寝ると、時間通りに目が覚めるとか、

下の乳歯が抜けたら、「鬼の歯になーれ」と言って屋根に投げ上げ、

上が抜けたら、「ネズミの歯になーれ」と言って、縁の下に放り込む、とか……

教えられるままに、幼かった私は、神妙に従ったものだ。



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バタバタと出かける支度をしていたら、つけようとしたネックレスのチェーンが絡んでしまっていた

というような経験はないでしょうか。


そんなときには、私が本から仕入れたこの呪文がおすすめ。

モシャシャノシャ、シャシャモシャシャ、モシャシャナケレバ、シャシャモシャモナシ 


舌を噛みそうだが、こんがらがった糸をほどくときに唱えていると、けっこう効果がある。

この、調子が良くて滑稽味のある言葉を繰り返しているうちに、焦りが消えて、

気持ちにゆとりが生まれてくるからかもしれない。


モシャシャノシャをモジャジャノジャと濁って唱えれば、

増毛のおまじないに転用できるのじゃないかしら。

薄毛が目立つようになった夫に、試してみたい。



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by mofu903 | 2013-06-14 09:30 | 不思議