ホトトギスの夜、カッコウの朝

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キョッ、キョキョキョッ!という、ホトトギスの鋭いさえずりを聞いた。


(その年、初めて聞く声を「忍び音」といって、平安の昔から、殊に趣のあるものとされているという)

それからというもの、ホトトギスは近隣の空を飛び回って、しきりに哀切な声を降らせるようになった。



しめやかな雨音が、闇に吸い込まれていくような夜半に聞けば、なおさら切ない。

「トッキョキョカキョク!」とも、「テッペンカケタカ!」とも、聞きなされるその声は、

胸の奥に秘めた想い(情念や、後悔や、未練や、望郷など)をかきたてるように響く。

ひとの想いが胸を突き破り、声となって夜空を駆けて行くのかもしれない。

身の内に孤独をかかえている人は、誰もが虜にならずにいられないだろう。


いにしえの人たちも同じ思いだったらしく、ホトトギスを詠んだ歌は多い。


恋ひ死なば恋ひも死ねとや霍公鳥(ほととぎす)物思ふ時に来鳴き響(とよ)むる
                                  (中臣宅守)



五月雨に 物思ひをれば ほととぎす 夜深く鳴きて いづちゆくらむ
                                  (紀友則)



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ゆうべは、ときどき思い出したように鳴くホトトギスを夜通し聞いていたが、

空が明けそめる頃には、それと入れ替わるようにカッコウが歌い始めた。

「かっこうワルツ」は、ピアノを習い始めた子が発表会でよく弾く曲だ。

私も練習した覚えがあるが、そのスタッカート(一音ずつ切る)で始まる楽譜どおり、

リズミカルで歯切れの良い声音だろうと想像していた。

しかし、実際に聞く声はまろやかで、K音よりP音が勝り、「パッポー」と聞こえる。

素朴な木彫りの玩具を思わせるが、やはりこの声も寂寥を含んでいて、どこか儚い。


――午睡から覚めた幼子が、目をこすりながら、誰もいない部屋であたりを見回して、

「おかあさん?」

返事がない。ためらいながら、もう一度。


来てよ、というふうに無心に呼ばれれば、探しに行きたくなる。

浅い夢からうつつへ、うつつからまた夢へと渡っていく、その声の余韻をたどって。




ホトトギスもカッコウも、カッコウ目カッコウ科、同じ仲間だ。

両者とも声ばかりが先行して、あまり姿を見せないそうだが、さっき散歩に出て、

尾の長い灰色の鳥が一羽、電線に止まっているのを見つけた。

灰色君がいきなり、「カッコー!」と一声。

すぐに羽ばたいて飛び去ったが、同じ姿かたちの鳥がもう一羽、あとを追って飛んでいくのを見て、

なんとなく肩の荷が下りた気がしたのだった。


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by mofu903 | 2013-06-08 15:30 | 動物