お金のかかる女

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気の置けない女同士が、コーヒーショップに陣取って、こんな話になった。


「理想の男性に一番言ってほしい言葉って、何だと思う?」

集まったのは全員既婚者だが、不謹慎にも、そんなことは頭から飛んじゃっている。
理想の男性≠現在の夫 が前提の、女性が好きな、「たら・れば話」の一環である。


「♪ユー、アー、マイ・ディステニ~っていう歌があるでしょ。一度でいいからそんなふうに言われてみたいわねぇ」と、恋愛映画通のAが言えば、

「♪いっしょういっしょにいてくれや~なんていうのも、地味だけど、真顔で言われたら、嬉しいんじゃない?」
と、B。

「一般論だけどさ、『君は、ほかの女性と違うね』っていう言葉、誰でもフラッとするらしいわよ」

Cの発言を受けて、
「そうそう、それで騙される!」
間髪を入れずにAが言い、みんなが笑った。
タラレバが一気に現実味をおびたが、このように夢と現実が目まぐるしく交錯するのが、ガールズトーク(笑)の常である。


そこへ、Jがおもむろに口を開いた。

「私はね~、『君は金がかかる女だな。はっはっは』これに尽きると思うな」

「え、なに、それ? 理想の彼氏にそんなこと言わせて、良心は痛まないの~?」
「痛みません。だって、相手はお金が腐るほどあるんだもの。理想の男性なんだから当然でしょ」
「そっかー、なるほどねぇ。確かに、そんな気前のいいこと言ってもらえたら、女冥利でしょうね」
全員がうんうんと頷いた。


『男の財力を当てにするなんて、ありえない!』と、バリキャリウーマンからは糾弾されそうなシチュエーションだが、ここでおバカ話に興じている彼女たちもまた、自力でそこそこ稼いでいる女性だ。

にもかかわらず、やたら他力本願なのは、この話題が、「もし、宝くじに当たったら…」という他愛ない空想と同一型だからである。


調子に乗ったJは、こう続けた。

「これね、最後の『はっはっは』が有ると無しでは、大違いなのよ。『金がかかる女だな!』ってキレられたり、『キミって、お金がかかるよね……』なんて、ため息まじりに言われたら情けないけど、最後に、この豪放な笑いが加わることによって、男の懐の深さとフトコロの暖かさが、パ~ッと精彩を放つんです」

得々と自説を述べてコーヒーを飲みほしたJは、友人から未使用のスティックシュガーをもらうと、にんまり笑ってバッグにしまった。

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あくまでも自己評価だが、私は「金のかからない女」だと思う。

かつては、身の丈に合わない浪費をしたこともあったが、わが家の黒歴史である<一夜貧乏>を体験して以来、霧が晴れるように物欲が失せていった。

肩のこるつきあいをしなくなれば、必然的に、高価なものを身に着ける必要も、高級店で食事する必要もなくなる。
何より、衝動買いをしなくなった。
清貧ともいえる暮らしぶりが、ずっと続いている。


目の前の財布だって、もう7年も使っている。
さすがにそろそろ買い替えないと。

……7年か。日数にすると365×7(ここで、電卓に手が伸びた)=2555日!

確か、財布は25000円だった。
となると、私はこの財布にお金を入れておくために、7年間、来る日も来る日も10円ずつ払っていたわけだ。


そう考えると、菓子の空き袋にでもお金を入れておけばよかったような気がしてくるから、不思議なものだ。

おそろしいことに、私の日々の暮らしは、この財布だけでこと足りるわけではない。
いま着ている、ユニク○の、ずだぶくろ修道士のような厚手チュニック1980円(すでに毛玉ができ始めているので、この冬いっぱい着られれば御の字)だって、90日間着用したとして、えーと、一日あたり22円。


――こたつ、こたつ布団、カーペット、座椅子、マグカップ、スプーン、パソコン、部屋履き。時計、カメラ、書棚、本、化粧品、ドライヤー、石鹸…………。

今日、私が使ったモノをすべて列挙したら、膨大なリストができ上がるのは必至である。
さらにそれらのモノの値段を日割りにして累計したら??



ひぇぇぇ、ちっとも清貧じゃないや!!

すみませんでした。
「金のかかる女」になるのは、辞退します。

現実世界の支払いは、自分自身なので。




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近所のお宅の塀越しに、毎年、香りを楽しませていただいている蝋梅。
たまたま、その家の方らしいご婦人が外にいらしたので、いつも開花を楽しみにしているんです、とお伝えしたところ、「お邪魔でなければ、お持ちになりますか?」とおっしゃる。
恐縮しつつ、お言葉に甘えることにしました。


ご婦人は、わざわざ高枝鋏を持ってこられて、見知らぬ通行人の私のために、見栄えのする大枝を選んで、何本も切ってくださいました。

こうしてデスクに向かっていても、優雅な香りが漂ってきます。
お金で買えない幸せをいただきました(n´―`n)


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