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ボーダーウーマン

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朝、着替えようとして、ありゃまっ!と思った。

キャミソールとショーツ、パジャマ代わりのハーフパンツと長袖Tシャツ。
これらすべてが、紺×白のボーダーだったからだ。 


始めからトータルコーディネートを目指していたなら、これは成功例だろうが、
今回のように無意識に着ていたとなると、話は別だ。



 前日の夜、お風呂上がりに電話がかかってきた。
大急ぎでタンスの引き出しから適当に引っ張り出して身にまとったので、
下着の色柄など気にかけていなかった。

唯一、ハーフパンツのボーダーは、自覚していたが、
Tシャツのほうは、夜中に寒気を覚えて起き出し、暗闇の中で手探りで調達したものだ。



 こんな話をすると、
ジャレットは、よほど紺×白のボーダーが好きなんだろう。と、思われるに違いない。

しかし、ここではっきりさせたいのは、
 私は、ボーダーは、まったくもって好きじゃない ということだ。

にもかかわらず、無意識に着たものがすべてこうなってしまったのだから、自分でも不思議でならない。

そもそも好きじゃないのに、なんで持ってるの?と聞かれたら、「なりゆきで」と答えるしかない。

たとえばハーフパンツは、ユニクロ製だが、本当は濃紺の無地がほしかった
だが、いくら探してもサイズがない。
いたしかたなく、紺×白のボーダーを買うことを余儀なくされた。

 別の店で買ったキャミソールも、花柄プリントはたくさんあったが、どれも、いまひとつだった。
そんな時、打開策として、買ってしまったのがボーダー。
ほかには無地のグレイしかなかったから。


縞だったら、ストライプが好きだ。
断然、しゅっとしたストライプの方がいい、と思っていても、
なぜか、ボーダーのほうから、私めがけて寄ってくるのだ。

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 夏の終わりに、たまたま、本当にたまたま、
唯一持っているボーダーのワンピースを着て買い物に行った。

そして、これもたまたま、何の気なしに、売り場にあったボーダーのシャツを手に取ったら、
店員さんが、背後から音もなく近づいてきて、

「おっきゃくさま、ボーダーがお好きですね~!」

素っ頓狂に耳元で言われて、驚くと同時に、カチンときた。
別にカチンとくるほどのことでもないのに、カチンときたのは、私の心が狭いからでしょう。

「いーえー、特に好きというわけでは・・・」
店員さんはぜんぜん聞いていなくて、
「たまには、こういった感じのプリントとかはいかがですか?」
「そうねぇ・・・」
「ね?ボーダー、お似合いですけど、たまには、ボーダーから気分を変えて――」
「いえ、あの・・・」
口ごもる私におかまいなしに、素早く別のプリント柄を当てて、
「こうやって、思い切ってボーダー以外も・・・」


ボーダー、ボーダー、ボーダー!!

なにかい、あたしゃ、楳図かずおかい?

カチンがガッチーンになった時点で、ついに、ビシッと反論した。

「私、ボーダーなんて、絶対に着ないんですっ!」



店員さんの目が、プロの誇りを見せて不敵に光った。
考えていることがありありと表情にあらわれている。
(ウッソー!現に、いま着てるじゃないスか)


試着用の鏡には、太目の横縞のせいで、さらに貫禄がついた自分が映っていた。


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この出来事は、私に思わぬ波紋を投げかけた。

時はさかのぼって、思春期(さかのぼりすぎだが)――

「やーい、やーい、お前、○○の事、好きなんだろ~」とからかわれ、
「好きじゃないわよっ、あんなヤツ!冗談じゃない!」と否定しながら、
それが度重なるうちに、あら不思議、複雑な感情が芽生えてくる。
そんな経験ってありませんか?
ぜんぜん好きじゃなかったのに、いつのまにか気になる存在になって、
「もしかして、私、○○君のことが・・・」



なーんてことを、つらつら考えているうちに、以前、調べ物をしていたときに、
ボーダーに関する文献があったことを思い出した。

探してみると、あった、あった。

『縞模様の歴史―悪魔の布』(ミシェル・パストゥロー著)によれば、

旧約聖書の中に、「2種類の糸で織った布地で服を着てはならない」という一文があるため、
中世ヨーロッパにおいては、縞模様(ボーダー)を着ることが禁じられていた。


また、二色の縞模様はどちらが主になる色かわからないという理由で、人々を惑わす模様、
つまり、悪魔の布とされていた。


したがって、縞模様の服は、犯罪者、娼婦、死刑執行人、旅芸人などが身につける(つけさせられる)ものであり、異端のシンボルでもあった。



こんな意味深長なボーダー論を読んでしまうと、いやがうえにも興味がかき立てられる。
この秋のファッションに、ボーダーの選択は考えてもいなかったのに。


もしかして、私、やっちまうかも。