とっぴんぱらりのぷう

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「とっぴんぱらりのぷう」

「どっとはらい」

「いちごさけた」

「むかしとーびん」

 こういったことばをご存知なら、あなたは昔話がお好きに違いない。

なんのおまじない?と思われる方も多いと思う。

 これらは、昔話の語りの最後、「めでたしめでたし」と同様に使われる、〆のことばだ。

民話の宝庫である東北地方に多いが、それ以外の地でも、さまざまな形で伝承されている。


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このあいだ、東京にしては、かなりの大雪が降った。

芽を出したての水仙の鉢はすっぽり埋まって小さな白いドームになり、

屋根に積もった雪は、庇からずっしりと垂れ下がった。

 その夜更け、布団に入ってほとんど眠りに落ちかけたとき、『ドッスーン!』という音にびっくりして

目覚めた。

屋根の雪が落ちた音だった。

 だれかが重たいものを庭に放り込んだようなその音が、

夢うつつの私を、ある物語に結び付けた。


 東北の民話「かさこじぞう(笠地蔵)」の中に、

貧しいおじいさんに笠をもらったお地蔵さまたちが、深夜に老夫婦の家を訪ねて来て、

お礼に年越しのごちそうがどっさり入ったカマス(藁のむしろを二つに折って作った袋)を、

どっすーん、どっすーんと置いて行く、そんな場面がある。

「ドッスーンは確かに、あの音だわ」とぼんやり考えながら、眠りについた。



 このように、たまに昔話のワンシーンに出会うことがある。

いつだったか、竹林を歩いていた時のこと。

日没前の、ひときわ輝く陽光を受けた一本の竹の節が、黄金色の光を放っていた。

それはそれは、眩しく美しく、その中には、まさしく幼いかぐや姫が座っているに違いないと

思えたのだった
 

また、宍道湖で、夕映えに染まったひとひらの雲を目にした時のことも忘れられない。

次々と色を変える薄衣のようで、天女が忘れたという天の羽衣もかくやと思われた。

 
そんな時は、ちょっと大げさだが、

「遠い昔の物語」が生まれる瞬間に立ち会えたような気がして嬉しくなる。


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まだ実家にいたころ、松谷みよ子さんの『昔話12カ月』という、

その月にちなんだお話がどっさり詰まっている文庫本のシリーズを持っていた。

 
幼稚園に行っていた甥っ子がそれに興味を示したので、一度読んであげたら、

すっかりファンになってしまった。

遊びにくるたびにせがまれて、どのくらい読み聞かせたことか。

 
その中に、桐の花が咲く谷のお話があった。

甥が特にそれを好んだので、繰り返し読まされたものだ。

最後の、「とっぴんぱらりのぷう」も、お気に入りだった。



 今年三十になる甥には、二歳の娘がいる。

その子に、桐の花にちなんだ、ちょっと古風な命名がなされた時は、

珍しい名前をつけたなぁ、としか思わなかったが、

これを書いているうちに、徐々に当時の記憶が戻ってきた。


「桐の谷のお話、覚えてる?」と、今度、甥が訪ねて来たら聞いてみようと思う。

現在の彼の様子からするに、十中八九、「え、それって、何だった?」という答えが返ってきそうだが。



 「とっぴんぱらりのぷう」、と物語が終わっても、

少しのあいだ、うっとりと夢の後ろ姿を追っているような子供のまなざしが好きだ。

小さかった甥も、姪も、息子も、娘も、昔話を聞かせた後は、決まってそういう目をしていたっけ……

と、懐かしく思い出している。
                                   


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