金魚考

昔ながらの金魚鉢に、グッドデザイン賞をあげたい。
紺青の縁取りがある口の部分がおおらかに波打っていて、
胴の優しい丸みは、思わずつるつると撫で回したくなる。
たおやかに浮かぶ緑の藻や、すいっと尾を振る金魚たちが、実に涼しげに映えるから、
先日デパートのウィンドーに飾られているのを見て、あらためて感心してしまった。


 私には、生き物を観察していると没頭してしまう癖があって(以前、お話したアサリのように)
特に金魚はいくら見ていても見あきない。
水面という透明な隔たりの向こうに揺らめいている姿は、
どこか見る者を引きつける魔力を持っている。
ヒトが、人魚や同属の妖精に魅入られる物語は、パターンこそ異なっても
世界各地で散見されるが、金魚も類似の資質を秘めているらしい。

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まだ幼稚園に行っていた頃だった。
近所のお社で縁日があって、そこで掬ったばかりの金魚をビニール袋に入れてもらい、
家に持って帰る途中だった。
金魚が二匹入った小さい三角のビニール袋には、
口を巾着のようにきゅっと絞って下げる細い紐がついている。

私はそれを目の前に掲げるようにして歩きながら、小さな赤い金魚にすっかり魅入られていた。


足だけは規則的に前に出ていたが、周囲の景色は眼中になく、もの音さえ耳に入らなかった。
そのままの姿勢で、私は警報が鳴っている踏切の中に、遮断機の隙間を抜けて入って行った。
親戚のお兄さんに肩を掴んで引き戻されなかったら、そこで私の人生は終わっていたはずだ。
目の前を、轟音を立てて急行電車が通過して行った。


お兄さんにも、その場に居合わせたよその大人たちにも、ひどく叱られた。
帰ったら、家の人たちに、もっとひどく叱られた。
「もう少しで電車にひかれて、死んじゃうところだったんだよ!」
火のように叱りつけられても、ひとつも<死んじゃう怖さ>がわからなかったので、
祖母が黙ったまま庭の睡蓮鉢に放している金魚を、早く見に行きたいと、
そればかり考えていた。



 最近、久しぶりに金魚を飼うことになった。それも、左足のふくらはぎに

色気のない話だが、虫刺されを放っておいたら、ちょうど小指ほどの長さに血の色が差して、
少し腫れたところが和金にそっくりなのだ。
掻き壊したので、ひらひらの尾っぽもある。
今日、目ざとい友達に、「タトゥーでも入れたかと思ったわよ」と笑われた。
とてもそんな思いきったことはできないが、このままずっと棲みついてくれてもいいな、
なんて思っている。

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by mofu903 | 2011-09-04 18:25 | 動物