急襲!
暑さで床に伸びていると、電話が鳴った。
頭のてっぺんから足の先までグンニャリゆるみきって、起き上がるのも億劫だ。
私の視線に耐えかねた夫が、不承不承ソファーから立ち、受話器を取る。
(どうせ、セールスでしょ。)
予想通り、夫は最速で会話を切り上げ、受話器を置いた。
予想外は、こっちを振りむいた夫が、ただならぬ形相になっていたことだ。
「○○さん一家が、今から来るってさ!」
はい?
遠方に住んでいて、ほとんど面識のない親戚が、我が家のすぐ近くまで来ているという。
うっそ~ん、玄関から始まる混沌が、家中を凌駕してるのにぃ~!?
マジで、死んだフリしかないと思った。
夫に応対に出てもらい、
「妻が急にみまかりましたので、今日のところはお引き取り下さい」
と言ってほしかった。
しかし、現実は、現実。
それから十分間のわれわれの奮闘振りには、鬼気迫るものがあった。
夫が投げてよこすものを手当たり次第に、押し入れ、クローゼット、浴室、
そのへんの隙間、におしこむ。
ドタバタの最中、こんな歌が頭の中に浮かんだ。
♪山寺の、和尚さんは……猫をカン袋に押しこんで~
(子供のころは、何を聞き違えたのか、「押し込んで」を「ドシ込んで」と歌っていた)
あらかたドシ込んだところで、掃除機をガラガラと引き出す。
スイッチを入れると同時に、脳みそのモーターもフル回転。
さて、次にやることは??
……そうだ、さすがにオバサンのショートパンツはナイわ。
もう少しお行儀の良い恰好をしなくては!
チャイムが鳴った。
ぜいぜいと荒い息でドアを開け、捨て身になって、
「よほこそ、おは(あ)がりくらはい」
とすすめる。
余裕の笑顔をつくろったつもりが、
後ろで夫がガチャガチャと掃除機を片付け始めたので腹が立った。
「いやいや、これからディズニーランドに行くので」
車に同行の友人を待たせているし、初めから玄関先のご挨拶のつもりで伺いました、という。
「そうおっしゃらずに、せめてお茶だけでも」という再三のすすめをにこやかに辞退して、
一行は颯爽と去っていった。
ああ、風林火山。疾きこと風のごとし。
折しも、家中の窓は全開。
あの人たちは、バタバタと走り回り、大声で指令を出しあい、
狂ったように掃除機をうならせているわれわれの騒ぎを、家の前ですでに聞きつけていたのであろう。
これぞ、武士の情け。
その後、われわれ夫婦がうち倒れたのは、言うまでもない。
by mofu903
| 2011-07-04 20:05
| 日常