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日くらし硯にむかひて

「心に移りゆくよしなし事を そこはかとなく書きつくれば あやしうこそものぐるほしけれ」
――兼好法師『徒然草』序の段

 高校の古文の授業でポピュラーな一節だが、この「あやしうこそものぐるほしけれ」の部分、
私にはずっと謎だった。
文章を書いているだけで「不思議なほど狂おしい気持ちになってくる」なんて。
解釈本を読んでも、諸説さまざまだ。
「正気を失って冷静な心がない」
「気違いじみている」
「気が変になりそうだ」

その中に、「書いているうちに乗りに乗って、いっちゃった状態」というのがあって、
なーるほどと思った。
つまり、今風に言えば、ライターズ・ハイね、と。

その気持ちはわかる。
確かに、タイプを打つ手が自分のものではないように動き始める瞬間がある。


 しかし今日、「ひぐらし」とは言わないまでも「そこはかとなく」短文を書いていて、
自分なりに兼好さんの気持ちに思いが到ったような気がした。

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 随筆を書くには、ネタがいる。
ネタを求めて、頭の中の引き出しをあちこち開けてみる。
すると、最近の関心事や、かつて経験したこと、どこかで聞いたり読んだりしたことが、
その時々に感じた喜怒哀楽、さらにはもっと微妙な感情まで伴って、飛び出してくる。
 押し寄せるさまざまな感情の波に翻弄され、
私も一時ながら、不思議なほど神経が高ぶって、
あやしうこそものぐるほし
と、切に思った。

やった! 尊敬する先達に一歩近づけた、と嬉しかったが、
兼好さんは、「あたま、大丈夫?」と呆れると思う。たぶん。

                     

 (びすこってぃさん、お写真をありがとうございました)